点検計器ラボ
測定器の選び方

浮遊粉じん量の測定に使う粉じん計の選び方|建基法12条は機器の要件を書いていない

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この記事の立場:筆者が全機種を実際に使ったレビューではありません。 法令が要求する要件と、各メーカーの公表スペックを突き合わせて「何が要件になるか」を 整理したものです。使用感の話は書いていません。

粉じん計を探すと、光散乱方式・相対濃度計・質量濃度変換係数といった言葉が並びます。どれも製品の説明としては正しいのですが、「では定期検査に使えるのはどれか」という問いには答えてくれません。

そこで法令から逆算するわけですが、この主題には落とし穴がひとつあります。建築基準法12条の定期検査を定めた告示は、粉じん計の要件を何も書いていないのです。書いてあるのは「粉じん計により測定する」という一文だけです。この告示だけを見て機種を選ぼうとすると、決め手が見つからないまま価格表を眺めることになります。

機器の要件が書かれているのは、別の法律の側です。この記事では、建築基準法側と建築物衛生法側の両方の原文を並べて、粉じん計の選定を実際に縛っているのがどちらなのかを整理します。

根拠となる条文

建築基準法12条側:検査項目と判定値

建築設備の定期検査の項目・方法・判定基準を定めているのは、平成20年国土交通省告示第285号です。浮遊粉じん量は、別表第一(換気設備)1項のうち**「空気調和設備の性能」の枝**に置かれています。各居室の温度・相対湿度・浮遊粉じん量・一酸化炭素含有率・二酸化炭素含有率・気流が、ここに連続して並びます。

各居室の浮遊粉じん量/居室の中央付近において粉じん計により測定する。/令第129条の2の5第3項の表(一)項の規定に適合しないこと。

(出典:平成20年国土交通省告示第285号)

検査方法として書かれているのは、測定位置(居室の中央付近)と「粉じん計により測定する」だけです。 測定器の方式・性能・較正について、告示は何も定めていません。

判定基準の参照先である建築基準法施行令第129条の2の5第3項は、中央管理方式の空気調和設備について、居室の環境が次の基準に適合するよう求めています。表(一)項が浮遊粉じんです。

(一)浮遊粉じんの量/空気一立方メートルにつき〇・一五ミリグラム以下であること。

(出典:e-Gov 建築基準法施行令)

同じ表には、一酸化炭素の含有率(百万分の六以下)、炭酸ガスの含有率(百万分の千以下)、温度(十八度以上二十八度以下)、相対湿度(四十パーセント以上七十パーセント以下)、気流(一秒間につき〇・五メートル以下)が並びます。粉じん計だけを買っても、この項目群は埋まりません。

見落としやすい点:記録で代替できる場合がある

告示285号の別表第一には、検査項目の一部に※印が付いています。粉じん量を含む1項(17)から(22)までは、次の扱いです。

前回の検査後にそれぞれ(は)欄に掲げる検査方法と同等の方法で実施した検査等の記録

がある場合は、(は)欄の検査方法にかかわらず当該記録により確認することで足りる、と定められています。

つまり、同等の方法で実施した測定の記録があれば、その場で測り直さなくてよい項目です。粉じん計を自前で持つ必要があるかどうかは、ここでいったん立ち止まる価値があります。

建築物衛生法側:機器の要件はこちらにある

機器の中身を定めているのは、建築物における衛生的環境の確保に関する法律の施行規則第3条の2(空気環境の測定方法)です。

当該特定建築物の通常の使用時間中に、各階ごとに、居室の中央部の床上七十五センチメートル以上百五十センチメートル以下の位置において、次の表の各号の上欄に掲げる事項について当該各号の下欄に掲げる測定器(中略)を用いて行うこと。

一 浮遊粉じんの量 グラスフアイバーろ紙(〇・三マイクロメートルのステアリン酸粒子を九九・九パーセント以上捕集する性能を有するものに限る。)を装着して相対沈降径がおおむね十マイクロメートル以下の浮遊粉じんを重量法により測定する機器又は厚生労働大臣の登録を受けた者により当該機器を標準として較正された機器

さらに測定の頻度と、比較すべき数値も定められています。

二 (中略)比較すべき数値は、一日の使用時間中の平均値とすること。 三 次に掲げる区分に従い、それぞれ次に定める事項について、二月以内ごとに一回、定期に、測定すること。

(出典:e-Gov 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則)

粉じん計の実質的な仕様は、建築基準法側ではなくこちらから決まります。

ここから決まる、選定の条件

条件1:重量法そのものか、登録較正を受けた機器か

規則が認めているのは二択です。重量法(ろ紙に捕集して秤量する)で測る機器そのものか、または重量法の機器を標準として厚生労働大臣の登録を受けた者により較正された機器か。

市販のデジタル粉じん計は光散乱方式の相対濃度計で、それ自体は重量法の機器ではありません。したがってこの経路で使う場合、較正を受けているかどうかが要件そのものになります。ここは付加価値ではなく、満たさなければ測定方法として認められない側の条件です。

⚠ 建築基準法12条側の告示は較正について何も書いていません。ただし書いていないことは「較正不要」を意味しません。告示だけを根拠に較正なしでよいと判断するのは、条文の沈黙を許可と読み替えることになります。

条件2:質量濃度への換算ができること

判定値は「空気一立方メートルにつき〇・一五ミリグラム以下」=質量濃度です。一方、相対濃度計が直接出すのは計数値(cpm)です。両者をつなぐのが質量濃度変換係数(K値)で、機器側でK値を入力して換算表示できるかどうかが、実務の手間を大きく左右します。

柴田科学のLD-5Rは、光散乱方式の相対濃度計であること、および「質量濃度変換係数(K値)を入力することにより、計数値を簡単に質量濃度換算することができます」とメーカーが明記しています。

条件3:床上75〜150cmで、各階の居室中央に据えられること

規則は測定位置を高さで指定しています。床に置いて済ませられる測定ではないため、三脚または相当の保持手段が実質的に必要です。各階ごと・居室ごとに移動するので、本体重量と持ち運びやすさが効いてきます。

条件4:一日の使用時間中の平均を出せること

比較すべき数値が瞬時値ではなく一日の使用時間中の平均値であるため、その場で数値を読んで終わりにはなりません。ロギング(記録)機能があるかどうかが、この条件に直接効きます。LD-5Rはロギング機能とトレンドグラフ表示を公表しています。

3機種の比較

デジタル粉じん計の代表機種を、メーカー公表値で並べます。⚠ LD-6N2 の較正費だけは公開ページに記載がないため、その旨を書いています(下記)。

柴田科学 LD-5R柴田科学 LD-5D柴田科学 LD-6N2
品目コード080000-73080000-5080170-22
想定用途(メーカー表記)高機能モデル高濃度粉じん用個人ばく露測定用
測定原理光散乱方式光散乱方式光散乱方式
測定範囲0.001〜10.000mg/m³(標準粒子に対して)0.01〜100.0mg/m³1〜100,000CPM(0.001〜100mg/m³)
測定感度1CPM=0.001mg/m³1CPM=0.01mg/m³1CPM=0.001mg/m³
測定精度±10%(標準粒子に対して)±10%(較正粒子に対して)指示値の±10%±1カウント
質量濃度換算あり(K値入力式)あり(K値0.1〜9.9を入力しCPMをmg/m³で表示)あり(機能欄に「質量濃度変換」)
データロギングあり(PC取込はオプションの通信ケーブル)あり(ロギング測定モード・付属USBケーブルと通信ソフトでPCへテキスト保存)あり(記録点数40,000点・専用ソフトでPC転送)
質量約1.1kg(電池含む)約2.88kg(電池含む)約0.5kg(検出部+中継ケーブル+操作部)
較正の受け先新規購入時に限り日測協較正・教育センター較正を付帯可(下記)日測協較正基準適合製品。作業環境測定に使うなら日測協新品較正費(品目コード080000-5019)を併せて注文製品ページに較正費オプションの記載なし(メーカーへ要確認)

出典:柴田科学 LD-5R / LD-5D / LD-6N2 / デジタル粉じん計 各モデルのご紹介(同シリーズの現行モデルは LD-1/LD-3S/LD-5/LD-5D/LD-5R/LD-6N2)

⚠ LD-6N2 の較正だけは、製品ページに費用オプションの記載がありません。 柴田科学のページには型式認定製品の一覧が載っていますが、そこに並んでいるのは「LD-6N」で、LD-6N2 とは別の型番です。作業環境測定に使う予定なら、購入前にメーカーへ較正の可否と費用を確認してください。

価格は税別定価が公表されている機種とされていない機種が混在するため、表には載せていません(希望小売と実売を混ぜないためです)。

測定感度の桁に注目してください。 判定値は0.15mg/m³です。LD-5Dの測定感度は1CPM=0.01mg/m³、測定範囲の下限も0.01mg/m³で、これは高濃度側に振った機種です。LD-6N2は測定範囲こそ広いものの、メーカーが用途として挙げているのは作業者が身につける個人ばく露測定で、規則が求める「各階ごと・居室の中央部・床上75〜150cm」の据置測定とは設計思想が違います。

つまりこの3機種は競合ではなく用途違いです。空気環境測定の判定値0.15mg/m³を扱う前提では、実質的にLD-5Rが該当機種になります。

用途別の結論

特定建築物の空気環境測定を自分で回す立場なら、較正の運用ごと決めてから機種を選ぶ。 建築物衛生法側は二月以内ごとに一回の測定を求めます。年に六回です。この頻度を外注し続けるのか自前でやるのかが先にあり、機種選定はその後の話になります。較正は買った時点で終わりではなく、機器を使い続けるかぎり付いてくる費用です。

該当機種はLD-5Rです。ただし後述のとおり、日測協較正・教育センター較正をメーカーで付帯できるのは新規購入時に限られます。 較正付きで注文するかどうかを決めてから発注してください。

建築基準法12条の定期検査だけが目的なら、まず購入以外の道を検討する。 粉じん量は※印の項目で、同等の方法で実施した検査等の記録があれば記録での確認で足ります。すでに建築物衛生法側の空気環境測定を実施している建物であれば、その記録が使える可能性があります。 自前の粉じん計が要るのか、記録の整理で済むのかを先に確認したほうが、機種を比較するより投資対効果は高くなります。

どちらの法令もかからない建物では、この記事の判定値はそのまま当てはまらない。 建築基準法施行令129条の2の5第3項が対象にしているのは中央管理方式の空気調和設備であり、建築物衛生法が対象にしているのは特定建築物です。対象範囲が違うので、両方かかる建物、片方だけかかる建物、どちらもかからない建物があります。 自分が扱う建物がどれに当たるかを先に確定させてください。

買う前に確認すること

較正の受け先と費用を、購入前にメーカーへ確認します。規則が求めているのは「厚生労働大臣の登録を受けた者により較正された機器」であるため、その較正をどこで受けられるのか、周期と費用はいくらかが、本体価格と同じ重さを持ちます。 ここを確認せずに本体だけ買うと、要件を満たさない機器を持つことになりかねません。

LD-5Rについては、メーカーが備考欄に条件を明記しています。

※LD-5Rを新規ご購入の場合、日測協較正付で承ることができます。(中略)『LD-5R日測協新品較正費 品目コード:080000-7219 価格¥30,000』と合わせてご注文ください。(当社で承る日測協較正は、新規ご購入時に限ります。) ※LD-5R型日測協較正付は、返品不可製品です。

教育センター較正付(品目コード080000-7218・28,000円)も同じく新規購入時限定です(出典:柴田科学 LD-5R)。本体だけ先に買ってから較正を足す、という順番が取れないということなので、ここは発注前に決め切る必要があります。なお日測協較正は作業環境測定を想定した較正であり、建築物衛生法の規則が求める「厚生労働大臣の登録を受けた者による較正」に当たるかどうかは、用途を伝えたうえでメーカーに確認してください。

K値の扱いも確認しておきたい項目です。K値は測定対象の粉じんの性状によって変わるものなので、機器が持っている既定値をそのまま使ってよいのかどうかは、運用の中で判断が要ります。

測定を伴う他の項目(一酸化炭素・二酸化炭素・温度・相対湿度・気流)も同じ検査の中にあります。粉じん計だけをそろえても検査は完結しないため、手持ちの機器で何が埋まっていて何が空いているかを一覧にしてから購入を決めたほうが、重複や取りこぼしを避けられます。気流の測定については排煙風量の測定に使う風速計の選び方で扱っています。

価格や在庫は市場の状況によって変動するため、購入時点で販売店やメーカーに直接確認することをおすすめします。

まとめ

浮遊粉じん量の測定は、建築基準法12条の定期検査の項目でありながら、その告示は粉じん計の要件を何も定めていません。定めているのは測定位置と「粉じん計により測定する」という一文だけで、判定値の〇・一五ミリグラム毎立方メートルは施行令側にあります。

機器の中身を決めているのは建築物衛生法の施行規則で、そこには重量法の機器か、登録を受けた者による較正を受けた機器か、という二択が書かれています。つまり粉じん計選びの本質は測定レンジではなく較正の運用です。あわせて、建築基準法側では記録による確認で足りる項目でもあるため、買う前に「そもそも自前で測る必要があるのか」を確認する価値があります。

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