点検計器ラボ
測定器の選び方

ビル管法の空気環境測定|基準は気流0.5m/s以下、なのに風速計の要件は0.2m/s以上が測れること

この記事の立場:筆者が全機種を実際に使ったレビューではありません。 法令が要求する要件と、各メーカーの公表スペックを突き合わせて「何が要件になるか」を 整理したものです。使用感の話は書いていません。

ビル管法(建築物における衛生的環境の確保に関する法律)の空気環境測定で、風速計を選ぶとき、多くの人がまずカタログの「測定範囲」を見ます。そして「気流の基準は〇・五メートル毎秒以下だから、0.5m/s近辺まで測れれば十分だろう」と考えがちです。実はここに読み違えが起きやすい落とし穴があります。

基準値の〇・五メートル毎秒以下というのは、あくまで「居室の気流がこの値を超えてはいけない」という管理基準です。一方、測定に使う風速計そのものに求められている性能は、この基準値とは別の場所に定められています。しかも、その要件は「上限までしっかり測れること」ではなく、「下限側の小さな気流までちゃんと拾えること」です。これは排煙設備の風量測定などで求められる、大風速をきちんと測れる風速計の要件とは、方向がまったく逆になります。

さらに温度計や湿度計には「〇・五度目盛」という目盛の細かさの指定があり、一酸化炭素・二酸化炭素には「検知管方式」という測定方式そのものが名指しされています。これらはカタログの「精度±〇〇%」という表記だけを眺めていても気づきにくい要件です。加えて、条文には「これと同程度以上の性能を有する測定器を含む」という緩和がありますが、これがすべての項目にかかっているわけではありません。どの項目に緩和が効き、どの項目に効かないのか、条文の構造をそのまま読む必要があります。

根拠となる条文

まず管理基準そのものは、建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令第2条に定められています。気流については「〇・五メートル毎秒以下」(e-Gov)とされており、これは居室で維持すべき状態の基準です。同条には浮遊粉じんの量「空気一立方メートルにつき〇・一五ミリグラム以下」、一酸化炭素の含有率「百万分の六以下」、二酸化炭素の含有率「百万分の千以下」、温度「十八度以上二十八度以下」、相対湿度「四十パーセント以上七十パーセント以下」、ホルムアルデヒドの量「空気一立方メートルにつき〇・一ミリグラム以下」も並んで規定されています(e-Gov)。

この管理基準をどうやって測るかを定めているのが、建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則第3条の2です。ここに、各項目ごとに使うべき測定器が具体的に列挙されています。気流については「〇・二メートル毎秒以上の気流を測定することができる風速計」(e-Gov)と定められており、これが測定器選定における実質的な要件になります。温度は「〇・五度目盛の温度計」、相対湿度は「〇・五度目盛の乾湿球湿度計」、一酸化炭素は「検知管方式による一酸化炭素検定器」、二酸化炭素は「検知管方式による二酸化炭素検定器」とされています(e-Gov)。

そして条文の柱書には「次の表の第二号から第六号までの下欄に掲げる測定器についてはこれと同程度以上の性能を有する測定器を含む」(e-Gov)という一文があります。つまり緩和の対象は第二号(一酸化炭素)から第六号(気流)までであり、第一号(浮遊粉じん)と第七号(ホルムアルデヒド)は、この「同程度以上の性能」という緩和の枠の外に置かれています。ここは条文の構造として、選定の際にはっきり意識しておく必要があります。

ここから決まる、選定の条件

風速計は下限側の分解能が効く

気流の管理基準は〇・五メートル毎秒以下ですが、測定器の要件は「〇・二メートル毎秒以上の気流を測定することができる」ことです(e-Gov)。これは、基準値ぎりぎりの大きな気流を測れるかどうかではなく、居室内でよくある弱い気流を精度よく検知できるかどうかを問うています。カタログで「最大測定範囲〇〇m/s」という表記だけを見て選ぶと、この下限側の性能を見落とすことになりかねません。風速計を選ぶ際は、上限のスペックよりも、〇・二メートル毎秒付近での測定精度や分解能の記載を確認することになります。

温度計・湿度計は目盛の細かさが名指しされている

温度は「〇・五度目盛の温度計」、相対湿度は「〇・五度目盛の乾湿球湿度計」と定められています(e-Gov)。デジタル表示の機器では「目盛」という概念がそのまま当てはまらない場合もありますが、条文上は目盛の細かさが〇・五度単位であることが求められている点を、公表スペックの表示分解能と突き合わせて確認する必要があります。

一酸化炭素・二酸化炭素は方式そのものが指定されている

一酸化炭素と二酸化炭素については、精度や測定範囲ではなく「検知管方式」という測定方式そのものが条文に書かれています(e-Gov)。この二項目は第二号・第三号にあたるため、「これと同程度以上の性能を有する測定器を含む」という緩和の対象に入ります(e-Gov)。したがって検知管方式そのものではなくても、同程度以上の性能があると説明できる測定器であれば選択肢に入り得ますが、その説明の可否は条文の文言に照らして個別に検討する必要があります。

浮遊粉じんとホルムアルデヒドは緩和の外にある

浮遊粉じんの量については、「グラスフアイバーろ紙(〇・三マイクロメートルのステアリン酸粒子を九九・九パーセント以上捕集する性能を有するものに限る。)を装着して相対沈降径がおおむね十マイクロメートル以下の浮遊粉じんを重量法により測定する機器又は厚生労働大臣の登録を受けた者により当該機器を標準として較正された機器」(e-Gov)と定められています。これは第一号にあたるため、「同程度以上の性能を有する測定器を含む」という緩和の対象には入りません。ただし条文自体に「較正された機器」という代替経路が用意されている点が、ホルムアルデヒドとの大きな違いです。

一方ホルムアルデヒドの量については、「二・四―ジニトロフェニルヒドラジン捕集―高速液体クロマトグラフ法により測定する機器、四―アミノ―三―ヒドラジノ―五―メルカプト―一・二・四―トリアゾール法により測定する機器又は厚生労働大臣が別に指定する測定器」(e-Gov)と定められています。これは第七号にあたり、やはり緩和の対象外です。しかも浮遊粉じんのような「較正された機器」という代替は条文に存在せず、列挙された二つの測定方法か、厚生労働大臣が別に指定する測定器のいずれかしか選択肢がありません。浮遊粉じんとホルムアルデヒドは、どちらも緩和の対象外という点では共通していますが、その先にある代替経路の有無がまったく異なるため、同じ扱いで語ることはできません。

機種の比較

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用途別の結論

定期的なビル管法の測定業務を請け負う立場であれば、気流測定は〇・二メートル毎秒以上の気流を測定できることが明示された風速計を選ぶことになります。上限側の測定範囲が広い機種は排煙風量測定など別用途では有用ですが、ここでの要件は下限側の分解能であることを踏まえて機種を選ぶ必要があります。温度・湿度についても、〇・五度目盛という条文の文言に対応した分解能の機器かどうかを、公表スペックの表示単位で確認する立場になります。

一酸化炭素・二酸化炭素の測定を担当する立場では、検知管方式の検定器を基本としつつ、同程度以上の性能を説明できる測定器を代替として検討する余地があります。ただしこの説明が妥当かどうかは、条文の文言と実際の機器の性能を照らし合わせて判断する必要があり、迷う場合は所轄への確認が要ります。

浮遊粉じんやホルムアルデヒドの測定を担当する立場では、緩和の対象外という前提のもと、条文に列挙された方法そのものに合致する機器を選ぶことが基本になります。浮遊粉じんについては較正された機器という選択肢があること、ホルムアルデヒドにはその選択肢がなく列挙された方法か大臣指定の測定器に限られることを、それぞれ別に確認しておく必要があります。

買う前に確認すること

測定器を導入する際は、条文の要件に合致しているかどうかだけでなく、実務上のいくつかの点も確認しておく必要があります。まず校正の有効期限です。検知管方式の検定器や重量法による粉じん計は、校正・較正の記録が求められる場面が想定されるため、購入時点でどのくらいの周期で校正が必要になるかを確認しておくとよいでしょう。次に付属品です。乾湿球湿度計であれば給水びんやガーゼの消耗品、検知管方式の検定器であれば検知管そのものが消耗品として別売りになっている場合が多く、初期費用とランニングコストを分けて把握しておく必要があります。対応電圧やバッテリーの持続時間も、現場での連続測定を想定するなら見落とせない点です。価格や在庫状況はメーカーや販売時期によって変動するため、購入直前に最新の情報を確認することをおすすめします。

まとめ

ビル管法の空気環境測定における測定器選びは、管理基準の数値をそのまま測定器の要件と読み替えると誤りやすい構造になっています。気流であれば基準値の〇・五メートル毎秒以下ではなく、規則が定める「〇・二メートル毎秒以上の気流を測定することができる」という下限側の性能が実質的な要件です。温度・湿度は目盛の細かさ、一酸化炭素・二酸化炭素は検知管方式という方式そのものが条文に書かれており、これらは第二号から第六号までの緩和の対象に入ります。一方で浮遊粉じんとホルムアルデヒドは緩和の対象外であり、しかも浮遊粉じんには較正された機器という代替経路があるのに対し、ホルムアルデヒドにはそれがないという条文構造の違いがあります。機種を選ぶ際は、カタログの目立つ数値だけでなく、条文がどの項目にどの要件をかけているのかを一つずつ突き合わせることが、遠回りのようで確実な近道になります。

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