点検計器ラボ
測定器の選び方

排煙風量の測定に使う風速計の選び方|告示の要求からスペックを逆算する

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この記事の立場:筆者が全機種を実際に使ったレビューではありません。告示が要求する測定方法と、各メーカーの公表スペックを突き合わせて「何が要件になるか」を整理したものです。使用感の話は書いていません。

排煙口に風速計を当てる作業自体は難しくありません。難しいのは、その前に「どの風速計を買うか」を決めるところです。

カタログを見ると熱線式・ベーン式・風車型が並んでいて、価格も1万円から10万円超まで開いています。どれを選べば検査に使えるのか、カタログ側からは分かりません。

順序を逆にします。告示が要求している測定方法から、必要なスペックを逆算します。

まず前提:排煙風量の測定は「消防点検」ではない

ここを取り違えている記事が多いので、最初に整理します。

排煙設備には2つの別々の法令ルートがあります。

消防法17条の3の3に基づく点検(消防設備点検)では、排煙設備の点検要領に風速・風量を測定する項目がありません。

消防庁が示す点検要領「第18 排煙設備」の総合点検の項目は、排煙機・給気機の起動、可動壁の作動、電動機の運転電流値、運転状況、回転羽根です。風速計は登場しません。

風量を測るのは、建築基準法12条に基づく建築設備定期検査のほうです。根拠は平成20年国土交通省告示第285号の別表第二。

つまり「消防設備点検のために風速計を買う」という発想だと、そもそも用途を取り違えています。買う理由は建築設備定期検査です。

告示が要求している測定方法

告示285号 別表第二から、排煙口の項を引用します。

排煙口の同一断面内から 5 箇所を偏りなく抽出し、風速計を用いて 1 点につき 30 秒以上継続して風速を測定し、次の式により排煙風量を算出する。

Q=60AVm

Q 排煙風量(単位 m³/min)/A 排煙口面積(単位 m²)/Vm 平均風速(単位 m/s)

排煙機側(煙排出口)も同じ方法です。

測定の流れを先にまとめると、次の5ステップです。

  1. 排煙口(または煙排出口)の同一断面内から、偏りなく5箇所を選ぶ
  2. 各箇所で、風速計を1点につき30秒以上継続してあてる
  3. 5箇所の風速から平均風速Vm(m/s)を出す(AVG機能があれば自動)
  4. 排煙口面積A(㎡)をかけ合わせ、Q=60AVmで排煙風量(㎥/min)を算出する
  5. 算出したQを、建築基準法施行令126条の3第1項第九号の基準(120㎥/min以上、かつ床面積1㎡につき1㎥以上)と照らして判定する

ここに一点、注意があります。

ネット上の解説では「対角線上の5点を測定する」と書かれているものを見かけますが、現行告示の表現は「同一断面内から5箇所を偏りなく抽出」です。対角線に限定されていません。

なぜこの表現が流通しているのか、その由来までは一次資料で確認できませんでした(由来は未確認)。確認できるのは「現行告示の文言ではない」という一点だけです。

実務上は「偏りなく」をどう担保するかの話になるので、対角線が禁止されるわけではありません。ただし対角線でなければならない、という縛りもない、というのが現行の文言です。

判定基準は建築基準法施行令126条の3第1項第九号。

前号の排煙機は、一の排煙口の開放に伴い自動的に作動し、かつ、一分間に、百二十立方メートル以上で、かつ、防煙区画部分の床面積一平方メートルにつき一立方メートル(二以上の防煙区画部分に係る排煙機にあつては、当該防煙区画部分のうち床面積の最大のものの床面積一平方メートルにつき二立方メートル)以上の空気を排出する能力を有するものとすること。

測った値をどこに書くか — 記録様式が自治体ごとに違う理由

「排煙風量測定記録表」を検索すると、いろいろな自治体のものが出てきます。国の様式を探しても見つからないので混乱しますが、法令を辿ると理由がはっきりします。結論から言うと、測定値を書く欄は国の様式のほうには無いからです。

出発点は建築基準法施行規則第6条です。第3項を引用します。

法第十二条第三項の規定による報告は、昇降機にあつては別記第三十六号の四様式による報告書及び別記第三十六号の五様式による定期検査報告概要書に、建築設備(昇降機を除く。)にあつては別記第三十六号の六様式による報告書及び別記第三十六号の七様式による定期検査報告概要書に、防火設備にあつては別記第三十六号の八様式による報告書及び別記第三十六号の九様式による定期検査報告概要書に、それぞれ国土交通大臣が定める検査結果表を添えてするものとする。

その「国土交通大臣が定める検査結果表」が何かは、告示285号の第3に書かれています。

第3 施行規則第6条第3項の国土交通大臣が定める検査結果表のうち、換気設備等に係るものは、次の各号に掲げる換気設備等の種類に応じ、当該各号に定めるとおりとする。 一 換気設備 別記第一号/二 排煙設備 別記第二号/三 非常用の照明装置 別記第三号/四 給水設備及び排水設備 別記第四号

つまり国が定めているのは「第三十六号の六様式の報告書+第三十六号の七様式の概要書+告示285号 別記第二号の検査結果表」の3点です。

ここが分かれ目です。この検査結果表は、測定値を書く様式ではありません。

行政庁が公開している記入例を見ると、別記第二号の欄は「番号/検査項目等/検査結果(指摘なし・要是正・既存不適格)/担当検査者番号」で、「排煙口の排煙風量」の行も該当欄に印を付けるだけです。風速や風量の数値を書く欄がありません。

では測定値はどこに書くのか。同じ第6条の、次の第4項です。

4 法第十二条第三項の規定による報告は、前項の報告書及び調査結果表に、特定行政庁が建築設備等の状況を把握するために必要と認めて規則で定める書類を添えて行わなければならない。

この「特定行政庁が…規則で定める書類」が、各自治体の排煙風量測定記録表です。実際、神奈川県内13特定行政庁の共通様式の記入例には、こう書かれています。

排煙風量測定記録表(別表3)を添付してください

自治体ごとに記録表が違うのは、国の様式と食い違っているからではありません。 国の様式は判定を書く器で、測定値の記録は行政庁が上乗せで求める添付書類だからです。しかも同じ神奈川の様式でも別表3・3-2・3-3と分かれており、加圧防排煙かどうかで用紙が変わります。

⚠ なお第6条第3項にはただし書もあり、特定行政庁が規則で報告書の様式や検査結果表そのものを定めた場合はそちらによるとされています。制度としては差し替えの余地もありますが、上記2件の実例はいずれも国の別記第二号を使いつつ測定記録表を添付させる運用で、こちらが第4項の世界です。

実務では次の順で確認することになります。

  1. 物件のある特定行政庁が、どの記録表の添付を求めているかを先に見る(測定値を書くのはこちら)
  2. 国の別記第二号は判定を記入する器なので、測定値の記録先を探す場所ではない

⚠ ここまでは排煙口・排煙機側の様式(神奈川でいう別表3・別表3-2)の話です。 そちらで書くのは告示285号 別表第二が算出を求めている平均風速Vmと排煙風量Qで、測定器側で平均を出せると転記が楽になります(後述の4つ目の要件)。

加圧防排煙の遮煙開口部だけは、そもそも風量に換算しないので記入する値も様式も変わります。後の「加圧防排煙は別枠」の節で扱います。

そしてこの記録表には、測定機器のメーカー名と型式番号を書く欄があります。 愛知県の記入例では、排煙口面積・測定風速・測定風量・規定風量・判定に加えて、測定年月日と「測定機器 メーカー名/型式番号等」が並んでいます(記入例の該当欄は「ハイブリッド風速計」)。どの機種を使ったかが報告書に残る、ということです。

⚠ 別記第二号の様式そのものは一次資料で確認できていません。 告示の本文PDFは様式部分が「略」となっており、上記は行政庁が公開している記入例2件(愛知県・神奈川県内13特定行政庁)の一致による判断です。

ここから、風速計に必要なスペックが4つ決まる

1. 測定レンジの上限は、意外と低くていい

判定に必要な風量から、実際に読む風速を逆算します。

Q=60AVm を Vm について解くと Vm = Q ÷(60 × A)。

最低ラインの120㎥/minで計算すると、

  • 排煙口面積 0.5㎡ → 必要な平均風速 4.0 m/s
  • 排煙口面積 1.0㎡ → 必要な平均風速 2.0 m/s
  • 排煙口面積 0.25㎡ → 必要な平均風速 8.0 m/s

床面積の大きい防煙区画では120㎥/minを超える能力が要求されるので上振れしますが、測定レンジの上限が20m/s程度あれば実務は足ります。40m/sまで測れることに価値はありません。

2. 効くのは下限のほう

上限より、測定レンジの下限を見てください。

理由は、同じ建築設備定期検査で機械換気設備の換気量も測るからです。告示285号には換気設備の項目もあり、こちらも「風速計を用いて風速を測定し、換気量を算出する」方法が指定されています。

換気設備の吹出し口・排気口の風速は、排煙口より一桁小さい領域に入ることがあります。ここで測定下限が0.4m/sの機種を選ぶと、換気設備側で測れないことが起きます。

排煙設備しかやらないなら下限は問題になりません。同じ現場で換気設備も測るなら、下限0.01m/s級を選ぶ必要があります。

これが機種選定の最大の分岐点です。

3. プローブの伸縮長

排煙口は天井面か壁面の高い位置にあります。脚立に乗って手を伸ばした先で、さらにプローブを差し込む必要があります。

伸縮ロッドが1000mm近くまで伸びるかを見てください。ここが短いと、測るたびに脚立の位置を変えることになります。

先端の角度を変えられるフレキシブル構造かどうかも、天井面の排煙口では効きます。

4. 平均値(AVG)機能

告示は「1点につき30秒以上継続して測定」と「平均風速Vm」を要求しています。

5箇所×30秒の測定値を手で記録して平均を出すこともできますが、AVG機能があれば機械が平均を出します。

1現場で排煙口が何箇所もある建物だと、ここの差は作業時間に直結します。記録件数(メモリ)の有無も同様です。

加圧防排煙は別枠 — 測定点が9箇所になり、判定も風速そのもので行う

ここまでは排煙口・排煙機の話です。同じ告示285号の中に、測り方そのものが変わる検査項目が一つあります。 特別避難階段の付室などに設ける加圧防排煙設備です。

(風速計を使う項目は他にもあります。別表第二1項(49)「給気送風機の給気風量」は吸込口から5箇所を抽出してQ=60AVmで換算する方式で、排煙口とまったく同じ測り方です。だから機材選定の結論は変わりません。変わるのは次に挙げる遮煙開口部だけです。)

別表第二の**2項(24)**から引用します。⚠ 1項にも(24)はありますが、そちらは「防煙壁の貫通措置の状況」で別物です。

遮煙開口部の排出風速 加圧防排煙設備を作動させた状態で遮煙開口部の開口幅を40cm開放し、同一断面内から9箇所を偏りなく抽出し、風速計を用いて一点につき30秒以上継続して風速を測定する。

排煙口は5箇所、こちらは9箇所です。 そして式による換算がありません。排煙口が「Q=60AVm で風量に直してから判定」なのに対し、遮煙開口部は測った風速そのもので判定します。

判定基準は平成28年国土交通省告示第696号の第五号ハ。開口高さから必要風速が決まります。

(1) 遮煙開口部における排出風速(メートル毎秒で表した数値とする。)が、当該遮煙開口部の開口幅を四十センチメートルとしたときに、次の(i)から(iii)までに掲げる場合に応じ、それぞれ(i)から(iii)までの式によって計算した必要排出風速以上であること。

(i) 隣接室が、一時間準耐火基準に適合する準耐火構造の壁(…)又は特定防火設備(当該特定防火設備を設ける開口部の幅の総和を当該壁の長さの四分の一以下とする場合に限る。)で区画され、かつ…火災の発生のおそれの少ない室である場合 V=2.7√H (ii) 隣接室が、…不燃材料の壁(…)又は…防火設備で区画され、かつ、火災の発生のおそれの少ない室である場合 V=3.3√H (iii) (i)又は(ii)に掲げる場合以外の場合 V=3.8√H

Hは遮煙開口部の開口高さ(m)です。扉の高さを入れると、必要風速の桁が見えます。

開口高さH(i) 2.7√H(ii) 3.3√H(iii) 3.8√H
1.8m3.6 m/s4.4 m/s5.1 m/s
2.0m3.8 m/s4.7 m/s5.4 m/s
2.4m4.2 m/s5.1 m/s5.9 m/s

つまり概ね3.6〜5.9m/sの帯で合否が分かれます。上で書いた「レンジ上限は意外と低くていい」という話は、こちらでも変わりません。

ただし、効いてくる要件が1つ増えます。 9箇所×30秒=1開口あたり4分半以上、扉を40cm開けたまま測り続けることになります。5箇所(2分半)の1.8倍です。プローブを片手で保持する時間が延びるので、AVG機能と、プローブの伸縮長・自立のしやすさが排煙口のとき以上に効きます。

記録表も別葉になります。 前の節で触れた神奈川県内13特定行政庁の記入例では、検査項目ごとに添付する用紙が指定されています(以下は原文から順不同で抜粋)。

1(9)「排煙機の排煙風量」及び1(18)「排煙口の排煙風量」については、排煙風量測定記録表(別表3)を添付してください。 1(37)「排煙口の排煙風量」については、排煙風量測定記録表(別表3-2)を添付してください。 2(24)「遮煙開口部の排出風速」については、排煙風量測定記録表(別表3-3)を添付してください。

同じ「排煙風量測定記録表」という名前でも、検査項目ごとに別表3・3-2・3-3と用紙が指定されています。 物件が加圧防排煙なら、対応するのは2(24)の行で、用紙は別表3-3です。

⚠ 各別表の欄の構成そのものは未確認です(指定されていることは記入例の指示文で確認しましたが、様式の実物には当たれていません)。

⚠ もう一点。2項(24)の判定基準には「令第129条第1項又は第129条の2第1項の規定が適用され、かつ、階避難安全性能又は全館避難安全性能に影響を及ぼす修繕等が行われていない場合を除く」というただし書があります。避難安全検証法を適用した建物では扱いが変わります。

3機種の比較

上の4条件で、実売2〜7万円帯の代表機種を並べます。数値はいずれもメーカー・販売代理店の公表値です。

testo 425サトテック TM-4001カノマックス 6006-D0
風速レンジ0.01〜20 m/s0.40〜25 m/s0.01〜20.0 m/s
分解能0.01 m/s0.01 m/s0.01 m/s(0〜9.99)/0.1 m/s(10.0〜20.0)
精度±(0.03m/s + 読み値4.0%)±(読み値3% + F.S.1.6%)±指示値の5% または 0.015m/s の大きい方
プローブ伸長最大 820mm400〜1000mm要確認(型番による)
データ記録あり99件ホールド機能
実売の目安約6万円台約34,980円約68,000〜69,500円

(出典:testo公式 / サトテック TM-4001 / カノマックス 6006-D0。⚠ 6006-D0 の分解能・精度はメーカー公式ページに掲載がないため、正規代理店の製品ページの公表値を採用しています)

用途別の結論

排煙設備だけを測る/予算を抑えたい → サトテック TM-4001

下限0.40m/sは排煙口の実測レンジ(おおむね2〜8m/s)を完全にカバーします。伸縮ロッドが1000mmまで伸びるのは、この価格帯では有利な条件です。3.5万円前後で要件を満たします。

同じ検査で換気設備も測る → testo 425 または カノマックス 6006-D0

下限0.01m/sが必要になるのはこのケースです。逆に言うと、排煙しかやらないなら差額を払う理由はありません。

testo 425 は内蔵気圧センサによる自動補正があり、プローブシャフト径7.5mmと細いので、小さい開口にも入ります。

カノマックス 6006-D0 は風速素子に白金巻線を使っていて耐久性を売りにしています。本体約100gと軽量です。

買う前に確認すること

構成品:カノマックスのアネモマスター系は型番によって本体とプローブの組み合わせが変わります。通販ページの型番だけで判断せず、プローブが付属する構成かを必ず確認してください。

校正証明書:定期検査の測定器は、校正証明書の提示を求められる場合があります。同じ型番でも「校正証明書付き」と「本体のみ」で出品が分かれているので、証明書が要る立場なら証明書付きを選んでください。後から単体で取ると別料金がかかります。

保証と修理経路:熱線式のセンサは消耗します。正規代理店経由かどうかで、センサ交換の受付が変わることがあります。


まとめ

  • 排煙風量の測定は消防設備点検ではなく、建築基準法12条の建築設備定期検査の項目
  • 告示285号は「同一断面内から5箇所を偏りなく、1点30秒以上、Q=60AVm」を要求(「対角線上」ではない)
  • 必要な測定レンジは上限20m/sで十分。効くのは下限
  • 排煙だけなら下限0.4m/sで足りる。換気設備も測るなら0.01m/s級が要る
  • プローブ伸長1000mm前後とAVG機能が、作業時間を決める

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