加煙・加熱試験器の選び方|感知器の種別ごとに、試験できる組み合わせが決まる
この記事の立場:筆者が全機種を実際に使ったレビューではありません。 法令が要求する要件と、各メーカーの公表スペックを突き合わせて「何が要件になるか」を整理したものです。使用感の話は書いていません。
加煙試験器と加熱試験器は、カタログ上では「煙感知器用」「熱感知器用」という切り分けで並んでいます。延長ポールの長さや、ガスカートリッジの容量、バッテリーの持続時間といった数字が目立つように書かれていて、選ぶときもそこを見て機種を絞り込みたくなります。
ですが、点検の現場で実際に効いてくるのは、その建物のその場所に「どの種別の感知器が設置されているか」のほうです。感知器の種別は、設置者が自由に選んでいるわけではありません。消防法施行規則が、天井の高さや場所の用途に応じて設置できる種別を細かく指定しています。つまり試験器を選ぶ前に、対象になる感知器の種別を条文側から先に確定させておく必要があります。
たとえば天井の高い倉庫や工場では、そもそも加熱試験器を使う場面が規則上ほとんど発生しない設計になっている、ということが起こります。これはカタログのどこにも書かれていない話で、条文を読まないと出てこない条件です。この記事では、規則第23条が定める感知器の種別と設置場所の関係を確認し、そこから試験器に求められる要件を組み立てていきます。
根拠となる条文
感知器の種別と取付け面の高さの関係は、消防法施行規則第23条4項2号の表に定められています。
「差動式スポット型、差動式分布型、補償式スポット型、定温式、イオン化式スポット型又は光電式スポット型」が設置できるのは、取付け面の高さが「四メートル未満」の場合です。 (e-Gov 消防法施行規則)
高さが「四メートル以上八メートル未満」になると、対象は「差動式スポット型、差動式分布型、補償式スポット型、定温式特種若しくは一種、イオン化式スポット型一種若しくは二種又は光電式スポット型一種若しくは二種」に絞られます。 (e-Gov 消防法施行規則)
さらに「八メートル以上十五メートル未満」では「差動式分布型、イオン化式スポット型一種若しくは二種又は光電式スポット型一種若しくは二種」、「十五メートル以上二十メートル未満」では「イオン化式スポット型一種又は光電式スポット型一種」だけが対象になります。 (e-Gov 消防法施行規則)
差動式スポット型・定温式スポット型・補償式スポット型については、規則23条4項3号で「差動式スポット型、定温式スポット型又は補償式スポット型その他の熱複合式スポット型の感知器は、次に定めるところによること」として、下端の位置や感知区域ごとの設置個数が定められています。 (e-Gov 消防法施行規則)
煙感知器については、規則23条4項7号で「煙感知器(光電式分離型感知器を除く。)は、次に定めるところによること」として、天井付近の吸気口周辺への設置や、下端の位置、壁・はりからの離隔などが規定されています。ここで光電式分離型が除かれているのは、光電式分離型の設置基準が同項7号の3に別に置かれているためで、7号は主にスポット型の煙感知器を対象にした規定になっています。 (e-Gov 消防法施行規則)
熱と煙を組み合わせた感知器についても、規則23条4項7号の2に「熱煙複合式スポット型感知器は、第三号イ並びに前号イ、ロ、ニ及びヘの規定(同号ヘの規定については、廊下及び通路に係る部分に限る。)に準ずるほか」という規定があり、熱側・煙側それぞれの設置規定を参照する形になっています。 (e-Gov 消防法施行規則)
また、スポット型全体に共通する規定として、規則23条4項9号に「スポット型の感知器(炎感知器を除く。)は、四十五度以上傾斜させないように設けること」とあります。これはスポット型という構造そのものの設置条件であり、次に説明する試験器の対象範囲を考えるうえでの手がかりになります。 (e-Gov 消防法施行規則)
煙感知器の設置が求められる場所については、規則23条5項に「階段及び傾斜路」「廊下及び通路(令別表第一(一)項から(六)項まで…に掲げる防火対象物の部分に限る。)」「エレベーターの昇降路、リネンシュート、パイプダクトその他これらに類するもの」などが列挙されています。ここで注意したいのは、5項が場所ごとに求めている感知器が一律ではないことです。「煙感知器を」と書かれている場所もあれば、「煙感知器又は熱煙複合式スポット型感知器を」「煙感知器又は炎感知器を」というように選択肢が示されている場所もあります。自分が担当する場所がどの号に当たるかで、対象になる感知器の種別が変わります。 (e-Gov 消防法施行規則)
ここから決まる、選定の条件
取付け面の高さで、加熱試験器の出番自体が変わる
規則23条4項2号の表を見ると、高さが「八メートル以上十五メートル未満」の場所で設置できる感知器は「差動式分布型、イオン化式スポット型一種若しくは二種又は光電式スポット型一種若しくは二種」に限られています。ここには差動式スポット型・定温式スポット型・補償式スポット型は含まれていません。「十五メートル以上二十メートル未満」ではさらに絞られて「イオン化式スポット型一種又は光電式スポット型一種」だけになります。
つまり、この高さの取付け面が中心になる建物(天井が高い工場や倉庫、体育館など)では、規則上そもそも加熱試験器で試験するスポット型の熱感知器(差動式・定温式・補償式)が設置される場面が限られているということになります。逆に加煙試験器の側は、この高さでも対象になる種別が残ります。試験器を選ぶときに「延長ポールの長さ」ばかり気にする前に、その現場でどちらの試験器の出番が多いのかを、まず高さの表から確認しておく必要があります。
差動式分布型は「スポット型」ではないため、試験の考え方が変わる
規則23条4項4号・4号の2・4号の3には、差動式分布型感知器(空気管式・熱電対式・熱半導体式)の設置規定がそれぞれ独立して定められています。これらは検出部・空気管・熱電対部・感熱部といった構造になっており、規則23条4項9号が対象にしている「スポット型の感知器」には含まれません。
一方で規則23条4項3号は「差動式スポット型、定温式スポット型又は補償式スポット型その他の熱複合式スポット型」を対象にしており、加熱試験器のカタログでも「スポット型」という表記が対象機種の説明に使われていることが多くあります。
ここで注意したいのは、差動式分布型はスポット型用の加熱試験器で代用できる感知器ではない、という点です。空気管式は配管内の空気の膨張、熱電対式は熱起電力というように、方式ごとに検出の仕組みそのものが違います。分布型が設置されている現場では、スポット型用の器材の対応範囲を確認するという発想ではなく、方式ごとにどの点検器具と手順が要るのかを先に確認してください。設置の規定が3号(スポット型)と4号・4号の2・4号の3(分布型)で分かれているのと同じように、器材の側も別立てになります。
煙感知器の設置基準は、スポット型と分離型で条文が分かれている
規則23条5項は「階段及び傾斜路」「廊下及び通路」「エレベーターの昇降路、リネンシュート、パイプダクトその他これらに類するもの」などの場所に煙感知器の設置を義務づけています。
その設置方法を定める条文は、種別によって分かれています。規則23条4項7号が「煙感知器(光電式分離型感知器を除く。)」を対象に下端の位置や壁・はりからの離隔を定め、光電式分離型については同項7号の3に別の規定が置かれています。5項が求めているのは「煙感知器」であって、そこから分離型かスポット型かが決まるわけではありません。
試験器を選ぶうえで効いてくるのは、この構造の違いです。スポット型は感知器本体に煙を到達させて作動させますが、光電式分離型は送光部と受光部の間の光軸を遮る方式なので、試験の考え方そのものが変わります。点検先にどちらが設置されているかは現地で確認するしかなく、条文からは決まりません。スポット型が中心の現場であれば、加煙試験器のポールの長さや狭い天井高さへの対応が要件として重くなります。
熱煙複合式スポット型は、熱側と煙側の両方の規定を参照して設置される
規則23条4項7号の2により、熱煙複合式スポット型感知器は熱側の規定(第3号イ)と煙側の規定(第7号の一部)の両方に準ずる形で設置されます。名前のとおり熱と煙の両方の感知要素を持つ感知器であることが、設置基準の建て付けからも読み取れます。
この種別が設置されている現場で、器材を加熱・加煙のどちらか一方だけで揃えられるかどうかは、実際の点検方法によります。点検の実施方法そのものは規則23条ではなく消防法施行規則31条の6(消防用設備等の点検及び報告)とその告示側で定められているため、どこまでの器材が要るかは所轄や点検基準にあたって確認してください。ここで言えるのは、この感知器が熱と煙の両方の要素を持つ以上、器材の対応範囲を確認せずに1台で足りると決めてかからないほうがよい、という点までです。
用途別の結論
一般的な事務所ビルや店舗のように、取付け面の高さが四メートル未満の場所が中心になる現場では、規則23条4項2号の表が最も多くの種別を許容します。差動式・定温式・補償式の熱感知器も、イオン化式・光電式の煙感知器も、いずれも表の上では設置できる高さです。実際にどの種別が入っているかは用途や設計条件で決まるため条文からは分かりませんが、熱と煙のどちらに当たっても対応できるようにしておく必要はあります。このタイプの現場を主に担当するのであれば、加熱試験器と加煙試験器の両方を、天井高さに合わせた延長ポールとあわせて用意しておくのが無難です。
天井の高い工場や倉庫、体育館など、取付け面の高さが八メートルを超える場所が中心になる現場では、規則23条4項2号の表により差動式分布型やイオン化式・光電式スポット型が中心になります。加熱試験器を使う場面自体が限られるため、加煙試験器の性能と、分布型感知器への対応方法を優先して確認するほうが実務に合います。
階段・廊下・パイプダクトなど、規則23条5項に列挙された場所を多く含む現場では、煙感知器が対象になります。5項は場所ごとに「煙感知器」あるいは「煙感知器又は熱煙複合式スポット型感知器」といった形で求めており、スポット型か光電式分離型かまでは指定していません。実際にどちらが入っているかは現地で確認することになります。スポット型が中心であれば、加煙試験器のポールの長さや狭い天井高さでの操作性が選定の軸になります。
買う前に確認すること
試験器そのものにも、消防設備の点検器材として気をつけておきたい点があります。まず押さえておきたいのは、加熱試験器・加煙試験器は値を読み取る測定器ではないということです。感知器に熱や煙を与えて作動するかどうかを確かめる器材であり、見るのは目盛りではなく感知器が動いたかどうかです。したがってカタログを見るときも、精度や分解能ではなく「対象の感知器を確実に作動させられるか」「その状態を安定して作れるか」を見ることになります。
そのうえで、加煙試験器の煙の濃度や加熱試験器の温度が安定して出せるかは、器材の状態に左右されます。メーカーが点検や整備の目安を示している場合は、購入時点でその内容と次回の目安時期を確認しておくと、現場で「作動しないのが感知器側の異常なのか器材側の不調なのか分からない」という状況を避けられます。
次に延長ポールの長さと、対応する天井高さの範囲です。現場の取付け面の高さは規則23条4項2号の表に沿って四段階に分かれていますが、ポールの長さがどこまでの高さに対応しているかは機種ごとに異なります。
加熱試験器についてはガスカートリッジの種類や交換のしやすさ、加煙試験器については煙源となる線香や薬剤の入手性も、日常的な運用に関わってきます。バッテリー式かAC電源かといった対応電圧の違いも、現場ごとの使い勝手に影響する部分なので、購入前に公表スペックで確認しておくと安心です。付属品の有無(ケース、予備の煙源、充電器など)もメーカーによって差があるため、購入前に一覧で確認しておくことをおすすめします。
まとめ
加煙試験器・加熱試験器を選ぶときに最初に見るべきなのは、器材のカタログスペックではなく、点検先の建物にどの種別の感知器が設置されているかです。それは規則23条4項2号の表が定める取付け面の高さと、規則23条5項が定める煙感知器義務の場所によって、あらかじめ絞り込まれています。差動式分布型のように、そもそもスポット型の加熱試験器の対象にならない感知器があることも、条文の構造から見えてきます。試験器のポールの長さやバッテリー性能を比較する前に、まずは対象になる感知器の種別を条文側から確定させておくと、選定の軸がぶれにくくなります。
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