絶縁抵抗計(メガー)の選び方|判定値ではなく測定電圧のラインナップで選ぶ
この記事の立場:筆者が全機種を実際に使ったレビューではありません。省令が要求する判定値と、各メーカーの公表スペックを突き合わせて「何が要件になるか」を整理したものです。使用感の話は書いていません。
メガーのカタログを開くと、まず目に入るのは「最大4000MΩまで測定可能」といった測定範囲の数字です。
しかし、法令が要求している判定値は 0.1MΩ です。4000MΩまで測れることに、実務上の意味はほとんどありません。
カタログが目立たせている数字と、選定で効く数字がずれています。順序を逆にします。
根拠となる条文
電気設備に関する技術基準を定める省令第58条から引用します。
電気使用場所における使用電圧が低圧の電路の電線相互間及び電路と大地との間の絶縁抵抗は、開閉器又は過電流遮断器で区切ることのできる電路ごとに、次の表の上欄に掲げる電路の使用電圧の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる値以上でなければならない。
| 電路の使用電圧の区分 | 絶縁抵抗値 |
|---|---|
| 300V以下 / 対地電圧が150V以下の場合 | 0.1MΩ |
| 300V以下 / その他の場合 | 0.2MΩ |
| 300Vを超えるもの | 0.4MΩ |
(「対地電圧」は、接地式電路では電線と大地との間の電圧、非接地式電路では電線間の電圧を指す、と同条に定義されています)
現場の言い方に直すと、単相100V回路が0.1MΩ、単相200V・三相200V回路が0.2MΩ、三相400V回路が0.4MΩです。
判定値の上限は0.4MΩ。 これが逆算の出発点です。
ここから、メガーに必要なスペックが3つ決まる
1. 測定範囲の上限は、選定基準にならない
判定に必要なのは0.1〜0.4MΩです。100MΩまで測れる機種でも、4000MΩまで測れる機種でも、この判定はできます。
「最大4000MΩ」を売りにしているカタログ表記は、判定の可否とは関係がありません。高い数値まで測れることが役に立つのは、絶縁の劣化傾向を経年で追いたい場合など、判定とは別の目的のときです。
ここに予算を割く理由は、少なくとも竣工検査・定期点検の判定に限れば、ありません。
2. 効くのは「定格測定電圧」のラインナップ
こちらが本題です。
絶縁抵抗は、測定器が直流電圧をかけて測ります。このかける電圧(定格測定電圧)を、回路に合わせて選ぶ必要があります。
現場での対応はおおむねこうなります。
| 測る回路 | 使う定格測定電圧 |
|---|---|
| 単相100V・200Vの一般回路 | 125V |
| 三相200V | 250V |
| 三相400V、または仕様書指定がある場合 | 500V |
| 電子機器・制御機器がつながっている回路 | 25V / 50V |
最後の行が重要です。回路の耐圧を超える電圧をかけると、つながっている機器を壊します。 インバータ、制御基板、LED照明の電源、通信機器。これらが接続されたまま500Vをかけると、修理費のほうが測定器代を超えることがあります。
分電盤の一般回路しか触らないなら125V/250V/500Vで足ります。設備更新や改修で、何がつながっているか分からない回路を測る立場なら、25V・50Vを持っている機種を選ぶ必要があります。
これが機種選定の最大の分岐点です。
3. アナログかデジタルか
判定値0.1MΩに対して、どちらでも判定はできます。分かれるのは記録と、測定中の挙動です。
デジタルは数値が確定するので記録が正確です。バーグラフ表示を併せ持つ機種なら、針の動き(充電電流で値が上がっていく過程)も追えます。
アナログは針の振れ方そのものが情報になります。ゆっくり上がっていくのか、途中で止まるのか。慣れた人ほどアナログを手放さないのはこの理由です。
新しく1台目を買うなら、記録が残るデジタルを勧めます。判定値を紙に書いて残す作業がある以上、読み取り誤差が入らないほうが安全です。
3機種の比較
数値はいずれもメーカーの公表値です。
| 共立 MODEL 3161A | 共立 KEW 3442 | HIOKI IR4053-10 | |
|---|---|---|---|
| 定格測定電圧 | 15V / 500V(2レンジ) | 25V / 50V / 125V / 250V(4レンジ) | 50V / 125V / 250V / 500V / 1000V(5レンジ) |
| 最大表示値 | 500Vレンジで100MΩ | 公表値要確認 | 1000Vレンジで4000MΩ |
| 表示 | アナログ | デジタル | デジタル |
| 実売・希望小売の目安 | 32,000円(税抜) | 39,000円(税抜) | 45,320円(税込) |
(出典:共立電気計器 MODEL 3161A / 共立電気計器 絶縁抵抗計ラインナップ / HIOKI IR4053(SATOTECH))
用途別の結論
一般的な低圧回路を一通り測る/1台目 → HIOKI IR4053-10
50V〜1000Vの5レンジで、低圧の現場で必要になる電圧をほぼ網羅します。デジタル表示で記録も残しやすい。4万円台後半で、この用途の標準機と言える構成です。
なお IR4053-11 は同じ本体にスイッチ付リードセットが付いた構成で、税込49,830円。片手が塞がる姿勢で測ることが多いなら、この差額は作業性に直結します。
電子機器がつながる回路を測る/低い測定電圧が要る → 共立 KEW 3442
25V・50Vを持っているのがこの機種の要点です。IR4053は下が50Vなので、25Vが要る場面ではこちらになります。ただし上が250Vまでなので、三相400V回路の0.4MΩ判定には使えません。測る対象を分けて2台持つという選択も現実的です。
予算を抑える/アナログで十分 → 共立 MODEL 3161A
3万円台前半。15Vと500Vの2レンジで、手のひらサイズです。ただし125Vと250Vを持っていないので、単相100V・三相200Vの回路に対しては500Vをかけることになります。つながっている機器がない回路と分かっている場合に限られます。
安いから選ぶ、ではなく用途が限定できるから選ぶ機種です。
買う前に確認すること
校正証明書:竣工検査の記録として提出を求められる場合があります。同じ型番でも「校正証明書付き」と「本体のみ」で出品が分かれるので、必要なら証明書付きを選んでください。後から単体で取ると別料金です。
テストリードの仕様:本体が同じでも付属リードで型番と価格が変わります(IR4053-10と-11がその例)。スイッチ付きかどうかは作業姿勢に効くので、価格差だけで判断しないでください。
測定電圧の切替を間違えない運用:多レンジ機は便利な反面、切り替え忘れで高い電圧をかけてしまう事故が起きます。単レンジ機がいまだに売れているのはこのためです。多レンジを買うなら、測定前にレンジを声に出して確認する程度の手順を自分の中に作っておくほうが安全です。
まとめ
- 低圧の絶縁抵抗の判定値は0.1 / 0.2 / 0.4MΩ(電技省令58条)。上限は0.4MΩ
- したがって「最大4000MΩ」といった測定範囲の広さは選定基準にならない
- 効くのは定格測定電圧のラインナップ。回路に合わない電圧をかけると機器を壊す
- 一般回路だけなら125V/250V/500V。電子機器がつながる回路を測るなら25V・50Vが要る
- 1台目はデジタル推奨(記録に読み取り誤差が入らない)
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